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所長のレポート

 企業会計ひいては日本経済を取り巻く様々なトピックに対し、所長・柴田博康が執筆したレポート集を掲載してあります。長年第一線で活躍し、数多くの経験の中で培った鋭い視点で書き綴られたレポートを、ぜひご覧ください!
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平成13年1月16日 会計ビックバン

1.はじめに
 近年、病院経営は高齢化等に伴う医療費の増加、長引く経済環境の低迷、医療保険財政の悪化など、非常に厳しさを増している。
 このような中、「これからの医業経営の在り方に関する検討会」最終報告書(平成15年3月26日)において、質の高い効率的な医療提供体制の構築を目指し、医療法人を中心とした改革の視点及び方向として病院経営の非営利性・公益性の徹底、効率性の向上、透明性の確保、安定した医業経営の実現等の提言がなされている。
     ここでは特に透明性を高める方策としての病院会計準則の見直し、医療法人会計基準制定の必要性に焦点をあて、公表されている「病院会計準則見直し等に係る研究報告書」(平成15年4月10日)について述べたい。

2.現行の病院会計準則について
 病院会計準則(昭和58年8月22日医発第824号厚生省医務局長通知)は、「一般に公正妥当と認められた会計の原則に基づいて病院会計の基準を定め、病院の経営成績及び財政状態を適正に把握し、病院経営の改善向上に資することを目的とする。」として昭和40年10月に制定された。病院会計準則は、会計構造として企業会計方式を採用し、構成内容として本文、注解、勘定科目の説明からなっている。
 その後、病院経営を巡る環境や実情の変化、企業会計原則の改正等諸般の状況を勘案し、昭和58年に改正されている。
 また、「医療法人運営管理指導要綱」等により病院を開設する医療法人の決算書の届出及び会計処理に関して病院会計準則に準拠すべきであるとされたため、現在では医療法人の病院においても概ね病院会計準則に基づいて財務諸表を作成しており、病院会計準則の財務諸表様式が定着し現在に至っている。

3.病院会計準則の見直しの必要性について
 病院会計準則の目的は、開設主体の異なる他の病院との経営比較等により自らの病院の経営成績や財政状態を的確に把握し、病院経営の効率的な運営に資することにある。
 前回の改正から20年あまりが経過し、医療費の増大、公的医療機関の再編成、介護保険制度の導入などによる医療サービスの構造変化があり、また、企業会計をめぐる新たな会計基準の導入、それに伴う会計に基づく利益概念と法人税法上の課税所得との乖離、そして社会福祉法人や独立行政法人等の公会計や非営利会計基準等が変更されている内外環境の変化のもと、病院会計準則の見直しが必要となったのである。

4.病院会計準則の性格について
 病院会計準則の改正案では、目的について「すべての病院を対象に、会計の基準を定め、病院の財政状態及び運営状況を適正に把握し、病院の経営体質の強化、改善向上に資することを目的とする。」と規定している。すなわち、病院経営管理目的ための会計情報を提供することであり、現行の病院会計準則とは本質的な差異は無いと考えられる。ただし、改正案では、「病院の開設主体は、それぞれの会計単位として財務諸表を作成しなければならない。」とし、施設を会計単位とし、個々の病院毎に財務諸表を作成する際の施設の会計基準という性格を明確にしている。
 病院会計準則は異なる非営利組織の施設の会計基準であるが、開設主体間での会計情報の比較可能性は確保されることが必要である。そのため、病院会計準則の改正案では、会計方針での経理自由の原則を制限し出来るだけ統一した会計処理を採用している。たとえば、たな卸資産の評価基準は低価基準とし、リース取引の処理方法では、ファイナンス・リース取引はすべて通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理をする、また、消費税等の会計処理方法は、税抜処理方式に統一するなどである。

5.財務諸表の改正内容について
 現行の病院会計準則において、病院が作成すべき財務諸表は、損益計算書、貸借対照表、利益金処分計算書または損失金処理計算書、附属明細表から構成されている。
 病院会計準則改正案では開設主体の全体を領域とせず、施設の会計基準であることが明確にされ、病院では配当等の利益の処分がないことから利益金処分計算書等は財務諸表から削除されている。施設の会計においても資金の状況を正確に把握する必要性があることから、キャッシュ・フロー計算書が財務諸表の一つとして新たに導入され、改正案では、病院の財務諸表は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書及び附属明細表となっている。また、貸借対照表の資本の部については、各開設主体に適用する病院会計準則では統一的な取り扱いは出来ないので、従来の資本の部にかえて、純資産の部に変更された。
 さらに、財務諸表の表示項目については、集約化を図り、一定の開示情報としての担保のために、注記・附属明細表が充実された。また、病院経営の効率化と透明性に資するために、最近の会計制度の改革に対応を図った。すなわち、リース会計、研究開発費会計、退職給付会計等が導入された。これらによって、財務諸表を通じて病院経営の実態をより適切に把握し、比較可能性が確保できるようになされている。

6.「医療法人会計基準」の必要性について
 現状の医療法の下では、医療法人の決算の届出(第51条)、書類の閲覧・整備(第52条)が規定されているだけであり、また、医療法人運営管理指導要綱においても病院等を開設する医療法人については、それぞれ病院会計準則等により処理されることが望ましいこととされ、決算の届出については、施設別または事業別のものと法人全体のものを提出することとされているだけであり、医療法人会計基準に相当するものは存在していない。
 病院会計準則を施設会計と性格づけしたことによって、医療法人全体の財政状態及び運営状況を明らかにする会計情報の作成にあたっては、別に、法人を対象とした会計基準が必要となる。医療法人会計基準は、病院会計準則で考慮さていない連結会計、セグメント情報、剰余金計算書等について包含されることになる。

7.おわりに
 今後、まだ時期について未定ではあるが、「改正病院会計準則」、「医療法人会計基準」が公表されて適用されていくことになる。そして、順次、異なる開設主体間の比較可能性を担保するための組み替え情報のガイドラインとしては「開設主体別病院適用ガイドライン」の制定、病院会計準則の処理基準や適用方法等を示す「病院会計準則実務指針」の整備がなされていくことになっている。
 まだ、検討すべきものとして、小規模医療法人等に係る特例措置などを具体的にどう適用していくのか、医療法人の財務諸表体系に組み込まれる連結財務諸表において、実質的支配関係に対する連結情報をどのように考えるのかなどがある。
 「改正病院会計準則」、「医療法人会計基準」を実務上において採用し適用していくことは大変な事務作業になるであろうが、厳しい医療を取り巻く環境の中、地域や患者の要望に対応しながら、医業経営を安定的に継続するために、現在、病院にとって企業会計と同水準の一定のものさしが必要となっていると考えられる。

(参考資料)
1.「これからの医業経営の在り方に関する検討会」
中間報告書(平成14年3月25日)
最終報告書(平成15年3月26日)
厚生労働省
2.「医業経営の近代化・効率化に向けた今後の取組」
(平成15年3月)
厚生労働省医政局
3.「病院会計準則等の見直しに関して」
中間報告(平成14年6月26日)
四病院団体協議会
病院会計準則研究委員会
4.「病院会計準則及び医療法人会計基準の必要性に関する研究」病院会計準則見直し等に係る研究報告書
(平成15年4月10日)
厚生労働特別研究事業
病院会計準則及び医療法人会計基準の必要性に関する研究班

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平成13年2月27日 執行役員制度について

執行役員制度を導入する企業が上場企業を中心として増加傾向にあります。執行役員制度は、執行役員制度を導入することで取締役を削減し、会社全体の観点からの意思決定と各事業部門での業務執行を分離することによって、意思決定権限・責任の明確化と迅速で効率的な経営を図ることを目的とした制度です。

 執行役員制度の導入については、取締役会の迅速な意思決定と活性化、業務執行権限の委譲によるスピード経営の実現、リストラの一環としての取締役の減員などその会社の意図した目的によって執行役員制は構築されるものであり、執行役員の権限・役割・義務などが決定されていきます。

 執行役員は現行商法での規定は存在せず、商法上の取締役ではないと解されています。したがって、執行役員は取締役会によって選任され、代表取締役の指揮・監督のもと、権限と責任が付与され一定の事業部門の執行を担当する使用人となります。

 執行役員と会社との契約関係は、委任契約か雇用契約かは最終的には会社の政策的な判断に委ねられていますが、代表取締役の指揮・命令下で業務に従事し賃金が支払われている以上その契約形態は一般に雇用契約と解されています。したがって、執行役員も労働基準法上の労働者と認められます。

 執行役員に関する税務上の取り扱いについては、執行役員は通常の場合は税法上の役員に該当するとは考えられていませんので他の使用人と同様です。ただし、執行役員がその会社の経営に従事していると認められるときには、税法上のみなし役員に該当し、支給された賞与は損金不算入など他の取締役と同じ取り扱いになります。

 執行役員の登記については、現行商法上の取締役ではないので、その必要性はありません。

 以上執行役員制度について簡単に述べてきましたが、今後、積極的な経営改革にあたり執行役員制度の導入を検討する企業が大企業だけでなく増えてくるのではないでしょうか。

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平成16年2月18日 企業再生と組織再編

1.長引く日本経済の低迷
 日本経済の成長率は、1970年代、80年代に比べ90年代は著しく低下した。90年代前半の低迷は、一般的にはバブル経済崩壊による後遺症とみられているが、10年以上にも及ぶ低迷から、最近では経済のグローバル化や自由化の進展による競争激化、価格破壊、企業のバランスシート調整、不良債権・過剰債務問題、さらには急速に進む少子高齢化による需要構造の変化などが原因であるとみられている。
 実際に、低迷を続けた90年代を通じて対応された経済政策も迷走を続けたと考えられる。「恒久減税」、「規制緩和」、「財政構造改革」、「サプライサイド政策」、「ベンチャー支援政策」、「調整インフレ論」、「e-Japan戦略」等の期待されて採用された政策の多くは、目覚しい効果をあげられないいままであり、その結果として日本の90年代は、「失われた90年代」または「失われた10年」と呼ばれるに至っている。
 2000年代に入っても、残念ながら、日本経済は一向に立直りの気配をみせていない。新世紀の幕開けにあって、わが国経済は、米国経済の減速にバランスシート調整の遅れも相まって、いまだ景気回復に向けた力強い歩みを期待することができない状況にある。また、中小企業の景況も弱含んでおり、日本経済の基礎である中小企業をめぐる環境の大きな構造変化のなかで、経営者は、「不確実性」の高まりにより自らの事業に自信を失いつつあるのではないだろうか。
 最近では失われた20年へ突入かといわれるまで日本経済の閉塞感、悲観論まで巷間でささやかれるに至り、日本企業そして金融機関は、依然として揺らぐ基盤に立ちながら国内外の経済環境激変の荒波に立ち向かわなければならない状況にある。 このような停滞を続ける日本経済の再生をかけ、金融システムの機能正常化を図るため不良債権の早期完全処理が緊急の課題となっている。

2.不良債権問題の発生
 日本経済における一連の金融市場不安定化の始まりは、いうまでもなくバブル崩壊といえよう。当時の株式、そして不動産と激しい資産価格の下落によりそれら資産を保有する個人、企業の資産そして財務状況が急激に悪化することになり、それらの資産を背景とした多数の債務者が破綻するに至ったことは、いまだ記憶に新しい。債権者である金融機関は担保不動産により回収を図ったが、担保不動産の価格も暴落し続けたため、膨大な損失を被った。資産価格急落、債務者の破綻、それに連動する金融機関の破綻が、90年代日本の経済社会の象徴的なイベントとなってしまった。
 87年から91年頃にかけての金融機関の与信は、すべてが株式や土地などの資産取得に向けられた。その後、融資資金で取得された資産の価格が暴落したことにより甚大な影響が資金の借り手と貸し手に発生するのは、いわば当然である。また、資産価格が暴騰していたときは、いわゆる資産効果で、企業や個人の最終支出、すなわち設備投資、消費が激増し経済成長率が上昇したのである。企業利益の増大は株価を一段と上昇させたが、逆に株価が下落すれば逆資産効果で消費も設備投資も激減し、景気を急激に悪化させるに至ったといえよう。

3.不良債権の最終処理とは
 金融機関においては、不良債権処理を間接償却から直接償却、債権の売却等によるオフバランス化を進めバランスシートから落とすという最終処理が進められている。
 しかし、不良債権の最終処理とは、常識的には債務者企業の法的整理が進めば促進されると考えられる。法的整理で債務者企業に対処すれば、強いデフレインパクトが経済に発生すると考えられる。また、金融機関自身の損失も拡大し、経済が一段と悪化し、不良債権はさらに急増することに相違ない。事態は改善せずに悪化する懸念が強いのである。
 そういった意味では、経済全体の体力が強化され病巣である問題企業の切開手術によらず自然治癒の可能性があるのなら、まずはその可能性を探ることである。不良債権に苦しむ日本経済というマクロベースで考えた場合には、経済そのものの改善こそ企業再生の特効薬といえる。また、企業再生により日本経済が改善され、不良債権問題の解決につながるともいえよう。

4.不良債権問題の適正な解決に向けて
 マクロベースで、不良債権問題を適正に解決するためには、現実を的確に捉えたうえで、透明性、公正性を重視し、地道に処理を進めるほかない。
 すなわち、不良債権を的確に把握する厳正な資産査定が大前提である。そのために、金融検査マニュアルが整備されており、厳格な運用で臨まれている。そのうえで自己管理原則を徹底すべきである。
 金融問題処理において両立させねばならない事項とは、金融システムの安全性確保と適正な責任処理の二点であろう。モラル・ハザードの回避とシステムの安定性確保を必ず両立させねばならない。金融問題に直面したすべての国が、二つの課題の両立に苦悩してきたといえる。日本の問題処理はこれまでシステムの安定性確保に偏向しすぎたかもしれない。とすれば、モラル・ハザード発生を回避するための適正な責任処理の視点が欠落してきたことになる。「借りたお金を返す」とは基本的な経済原則であり、守られなければ、ペナルティ-を受けるのは当然である。債権放棄は金融機関の選択肢の一つではあるが、債権放棄が費用最小化の方策であったとしても、借り手責任が消滅するのではないことを認識する必要があろう。

5.企業再生とは
 企業再生とは、要注意先企業等の業績不振企業の抜本的な事業再生、すなわち事業の再構築、不採算部門の撤退、新たなビジネスモデルの構築等により、競争力、収益性等を高め、正常先にランクアップし、経営の健全性が安定的に確保されるようにすることであり、問題の先送りによる一時的な延命措置とは基本的に異なる。
 不良債権問題は、日本経済が抱える「負の遺産」であり、今後日本経済の構造改革を進め、真の景気回復を図るためにも、不良債権の最終処理を行うことにより、人的・物的資源がより生産性が高い分野に流れていくことが期待されている。
 現在の不良債権問題は、単に金融機関サイドだけの問題ではなく、産業構造や企業経営の転換・調整圧力等を背景とした取引先企業の業績悪化やデフレ経済による資産価格の下落により、金融機関の不良債権処理を上回るペースで新規の不良債権が発生している企業サイドの問題にも起因している。
 金融機関は、これまで多額の不良債権処理を実施してきており、平成4年度以降13年度までの累計処理額は約90兆円となっているが、不良債権問題は企業の業績不振と表裏一体の関係にあるため、依然不良債権の新規発生に減速がみられない。このため、貸出資産の劣化になお歯止めがかかっておらず、不良債権問題の克服は、引き続き経営上の緊急の課題となっている。
 したがって、金融機関が不良債権問題を克服し、活力を取り戻すためには、既存の不良債権のいっそうの処理促進を図るだけではなく、先行き不良債権に転化する可能性のある取引企業の経営改善を通じて、取引企業の資産内容の劣化防止や改善を図ることが不可欠である。不良債権処理の遅れは、企業の構造調整の遅れ、ひいては経済全体の再活性化の遅れにつながりかねないという深刻な問題を有していることから、金融機関サイドの不良債権処理の問題と、企業サイドの企業再生の問題を一体的に解決することが不可欠であり、経済合理性にかなった行動でもある。
 そういうなかで、平成13年4月の「緊急経済対策」において、「各金融機関に対し、要注意先債権等の健全債権化および不良債権の新規発生の防止のための体制整備を求める」ことが盛り込まれ、金融当局からも緊急経済対策の趣旨に沿った取組み、すなわち企業再生に向けた取組みが要請された。
 また、平成13年10月の「改革先行プログラム」においては、主要行の破綻懸念先以下の債権のオフバランス化にあたり、
① 債務者企業の再建可能性を的確に見極め、再建可能な企業については、極力、再生の方向で取り組む。
② 中小企業については、特性も十分に考慮し、再生可能性、健全債権化について、キメ細かく的確な判断を行う。
③ 債務者企業の取引先である健全な中小企業の連鎖的な破綻を招かないよう十分に配慮する。
ことが要請された。
 このような要請を受けるまでもなく、地元企業の育成・振興を幅広く支援していくことは、金融機関に期待される重要な役割であるとともに、地域経済の活性化・発展を通じて将来にわたる収益基盤の拡充・強化にもつながり、金融機関にとってもその意義は大きい。

6.企業再生へ向けての諸制度の整備
 商法においては平成9年の改正で合併手続が簡素化され、11年には、自己株式による企業買収や持株会社設立を可能とする株式交換・株式移転制度が、12年には、自己株式の割当による事業の分割・買収を可能とする会社分割制度が創設された。新制度の導入によって、企業の事業再編が迅速に進められるようになった。
 さらに、平成13年4月1日に施行された民事再生法は、日本の倒産法に、これまでなかった「敗者復活のルール」を持ち込んだといえる。つまり、経営危機の陥った企業の経営陣が早い段階で白旗をあげられるようになったということである。民事再生法では原則としては債務者が引き続き経営することが許されることから、早い段階で手を打ち、自分の手で再建しようと前向きになるのも当然のことである。
 この事業再生のシステム確立の実質的なトガリーともいえる民事再生法の制定には、「窮境にある企業を、破産も清算も行わずに放置したままでは問題はさらに肥大化するばかり」と考えられていた1990年代後半の不良債権問題が背景にあり、平成10年以来、中小企業の倒産が急増するなかで、中小企業を対象とした再建型の倒産手続処理を早急に作るべきとの意見が相次ぎ、民事再生法が制定されることとなったのである。

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平成16年3月30日 病院会計準則の改正と医療法人会計基準について

1.はじめに
 近年、病院経営は高齢化等に伴う医療費の増加、長引く経済環境の低迷、医療保険財政の悪化など、非常に厳しさを増している。
 このような中、「これからの医業経営の在り方に関する検討会」最終報告書(平成15年3月26日)において、質の高い効率的な医療提供体制の構築を目指し、医療法人を中心とした改革の視点及び方向として病院経営の非営利性・公益性の徹底、効率性の向上、透明性の確保、安定した医業経営の実現等の提言がなされている。
     ここでは特に透明性を高める方策としての病院会計準則の見直し、医療法人会計基準制定の必要性に焦点をあて、公表されている「病院会計準則見直し等に係る研究報告書」(平成15年4月10日)について述べたい。

2.現行の病院会計準則について
 病院会計準則(昭和58年8月22日医発第824号厚生省医務局長通知)は、「一般に公正妥当と認められた会計の原則に基づいて病院会計の基準を定め、病院の経営成績及び財政状態を適正に把握し、病院経営の改善向上に資することを目的とする。」として昭和40年10月に制定された。病院会計準則は、会計構造として企業会計方式を採用し、構成内容として本文、注解、勘定科目の説明からなっている。
 その後、病院経営を巡る環境や実情の変化、企業会計原則の改正等諸般の状況を勘案し、昭和58年に改正されている。
 また、「医療法人運営管理指導要綱」等により病院を開設する医療法人の決算書の届出及び会計処理に関して病院会計準則に準拠すべきであるとされたため、現在では医療法人の病院においても概ね病院会計準則に基づいて財務諸表を作成しており、病院会計準則の財務諸表様式が定着し現在に至っている。

3.病院会計準則の見直しの必要性について
 病院会計準則の目的は、開設主体の異なる他の病院との経営比較等により自らの病院の経営成績や財政状態を的確に把握し、病院経営の効率的な運営に資することにある。
 前回の改正から20年あまりが経過し、医療費の増大、公的医療機関の再編成、介護保険制度の導入などによる医療サービスの構造変化があり、また、企業会計をめぐる新たな会計基準の導入、それに伴う会計に基づく利益概念と法人税法上の課税所得との乖離、そして社会福祉法人や独立行政法人等の公会計や非営利会計基準等が変更されている内外環境の変化のもと、病院会計準則の見直しが必要となったのである。

4.病院会計準則の性格について
 病院会計準則の改正案では、目的について「すべての病院を対象に、会計の基準を定め、病院の財政状態及び運営状況を適正に把握し、病院の経営体質の強化、改善向上に資することを目的とする。」と規定している。すなわち、病院経営管理目的ための会計情報を提供することであり、現行の病院会計準則とは本質的な差異は無いと考えられる。ただし、改正案では、「病院の開設主体は、それぞれの会計単位として財務諸表を作成しなければならない。」とし、施設を会計単位とし、個々の病院毎に財務諸表を作成する際の施設の会計基準という性格を明確にしている。
 病院会計準則は異なる非営利組織の施設の会計基準であるが、開設主体間での会計情報の比較可能性は確保されることが必要である。そのため、病院会計準則の改正案では、会計方針での経理自由の原則を制限し出来るだけ統一した会計処理を採用している。たとえば、たな卸資産の評価基準は低価基準とし、リース取引の処理方法では、ファイナンス・リース取引はすべて通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理をする、また、消費税等の会計処理方法は、税抜処理方式に統一するなどである。

5.財務諸表の改正内容について
 現行の病院会計準則において、病院が作成すべき財務諸表は、損益計算書、貸借対照表、利益金処分計算書または損失金処理計算書、附属明細表から構成されている。
 病院会計準則改正案では開設主体の全体を領域とせず、施設の会計基準であることが明確にされ、病院では配当等の利益の処分がないことから利益金処分計算書等は財務諸表から削除されている。施設の会計においても資金の状況を正確に把握する必要性があることから、キャッシュ・フロー計算書が財務諸表の一つとして新たに導入され、改正案では、病院の財務諸表は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書及び附属明細表となっている。また、貸借対照表の資本の部については、各開設主体に適用する病院会計準則では統一的な取り扱いは出来ないので、従来の資本の部にかえて、純資産の部に変更された。
 さらに、財務諸表の表示項目については、集約化を図り、一定の開示情報としての担保のために、注記・附属明細表が充実された。また、病院経営の効率化と透明性に資するために、最近の会計制度の改革に対応を図った。すなわち、リース会計、研究開発費会計、退職給付会計等が導入された。これらによって、財務諸表を通じて病院経営の実態をより適切に把握し、比較可能性が確保できるようになされている。

6.「医療法人会計基準」の必要性について
 現状の医療法の下では、医療法人の決算の届出(第51条)、書類の閲覧・整備(第52条)が規定されているだけであり、また、医療法人運営管理指導要綱においても病院等を開設する医療法人については、それぞれ病院会計準則等により処理されることが望ましいこととされ、決算の届出については、施設別または事業別のものと法人全体のものを提出することとされているだけであり、医療法人会計基準に相当するものは存在していない。
 病院会計準則を施設会計と性格づけしたことによって、医療法人全体の財政状態及び運営状況を明らかにする会計情報の作成にあたっては、別に、法人を対象とした会計基準が必要となる。医療法人会計基準は、病院会計準則で考慮さていない連結会計、セグメント情報、剰余金計算書等について包含されることになる。

7.おわりに
 今後、まだ時期について未定ではあるが、「改正病院会計準則」、「医療法人会計基準」が公表されて適用されていくことになる。そして、順次、異なる開設主体間の比較可能性を担保するための組み替え情報のガイドラインとしては「開設主体別病院適用ガイドライン」の制定、病院会計準則の処理基準や適用方法等を示す「病院会計準則実務指針」の整備がなされていくことになっている。
 まだ、検討すべきものとして、小規模医療法人等に係る特例措置などを具体的にどう適用していくのか、医療法人の財務諸表体系に組み込まれる連結財務諸表において、実質的支配関係に対する連結情報をどのように考えるのかなどがある。
 「改正病院会計準則」、「医療法人会計基準」を実務上において採用し適用していくことは大変な事務作業になるであろうが、厳しい医療を取り巻く環境の中、地域や患者の要望に対応しながら、医業経営を安定的に継続するために、現在、病院にとって企業会計と同水準の一定のものさしが必要となっていると考えられる。

(参考資料)
1.「これからの医業経営の在り方に関する検討会」
中間報告書(平成14年3月25日)
最終報告書(平成15年3月26日)
厚生労働省
2.「医業経営の近代化・効率化に向けた今後の取組」
(平成15年3月)
厚生労働省医政局
3.「病院会計準則等の見直しに関して」
中間報告(平成14年6月26日)
四病院団体協議会
病院会計準則研究委員会
4.「病院会計準則及び医療法人会計基準の必要性に関する研究」病院会計準則見直し等に係る研究報告書
(平成15年4月10日)
厚生労働特別研究事業
病院会計準則及び医療法人会計基準の必要性に関する研究班

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平成17年5月24日 中小企業とM&A

1、はじめに
 企業経営は、従来の延長線上で描くことが出来なくなりました。生き残るためには、得意分野への特化、従来の枠に囚われない変化、共存共栄など先進的で柔軟な発想が求められています。このような厳しい環境のもと、中小企業の経営者は、事業展開の迅速な対応、業容拡大、事業経営の承継を円滑に進めるためにあらゆる方策を考え探し求めています。M&Aを、大企業だけでなく中小企業にとっても諸問題の解決手段として前向きに考えてみてはどうでしょうか。

2,M&Aとは
 M&Aとは、Merger(合併)and Acquisition(買収)の略であり、企業の合併と買収を意味します。一般的にM&Aというのは、会社もしくは経営権の取得を意味し、合併、株式取得、営業譲渡などの手法があります。M&Aをもっと広く考えれば、業務提携、資本提携などの経営面での協力関係も含められます。

3,M&Aの効果
 M&Aの期待される効果を買い手側と売り手側で掲げるとすれば、下記のようになりますが、最近では、企業の組織再編や企業再生のためのM&Aが増えています。
 買い手側にとっては、①同業他社の買収により既存事業規模の拡大を図ること。②生産コストを引き下げること。③新製品開発のために、新技術の導入をすることであり、売り手側にとっては、①後継者を確保すること。②事業部門の再構築をすること。③資金を確保し、業績を回復すること。④創業者利益を得ることとなります。

4、M&Aの方法
 M&Aは、その目的や当事者の事業内容、事業規模、財務内容、また、業界の状況などの経済環境によって選択される方法が変わります。
 M&Aの方法には、複数の会社を契約により一つの法人格に統合する合併、株式や事業資産を取得する買収、二つ以上の企業がお互いに業務面、資金面で協力し合う提携などがあります。株式の取得には、株式購入、増資引受、株式交換があり、また、事業資産の取得には、株式を購入する方法に代えて、買収会社が必要とする被買収会社の事業資産の全部または一部を購入するまたは承継する方法があります。

5,最後に
 M&Aの方法は、商法、税法、その他の関連する法規によって実務的には限定されることがありますが、近年、商法等の改正は頻繁に行われています。新しい経済社会構造が構築中の現在の状況では、大企業だけでなく中小企業を含めあらゆる業種において、企業の合併、分割、事業統廃合等が行われています。商法等の改正により、株式交換、株式移転、会社分割などのM&Aの手法が整備され、M&Aが活用できる範囲が拡大されています。また、M&Aを専門とする業者の増加、資金調達方法の多様化により、M&Aは中小企業にとっても利用しやすくなっています。現在の中小企業の経営者において、新しい経営基盤の確立、事業承継のためにも、M&Aを有効に活用することは、重要な戦略となっています。

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平成18年2月12日 中小企業会計指針

1、新会社法(会社法制の現代化)
 商法、有限会社法などが、明治以来の大改正が行われ又整理統合されて、新会社法として本年6月に成立し、来春施行される予定です。会社法制の現代化は、内容面で社会経済情勢の変化に対応するための改正がなされました。すなわち、規制を緩和し、起業を促進する制度の充実、経済活動の活発化を図ることを目的としています。
 新会社法では組織再編(M&A等)が容易になる改正も行われました。合併等の際の「対価の柔軟化」や、大きな会社が小さな会社を吸収合併等する際に株主総会決議を不要とする「簡易組織再編」「略式組織再編」などです。

2,対価の柔軟化とは
 新会社法では、吸収合併、吸収分割、株式交換が行われる場合、消滅会社等の株主に交付される対価は、存続会社等の株式に限定されず、金銭その他の財産を交付することができるようになりました。現行法下では、吸収合併等が行われる場合は、消滅会社の株主に交付される対価は存続会社の株式に原則限られていました。しかし、現在では、組織再編に際して交付される対価を存続会社等の株式に限定することなく、ほかの会社の株式や金銭も対価とすることができるようにすべきという経済界の要求が強くなってきていました。その具体的手法としてあげられるものは、現金合併(交付金合併、キャシュ・アウト・マージャー)と三角合併です。現金合併とは、消滅会社の株主に金銭のみを交付する合併をいいます、また、三角合併は子会社が他の会社を吸収合併する際に親会社の株式を対価として交付する合併です。
 この対価の柔軟化については、外国企業等の敵対的買収に対する懸念からその施行は2007年へと一年先送りされました。

3,簡易組織再編とは
 新会社法では、消滅会社等の株主に交付する対価(株式、金銭等)の合計額が存続会社等の純資産額の20%以下である場合には、存続会社等における株主総会の決議は不要となりました。
 現行法では、存続会社等において株主総会の決議を省略できるのは、組織再編にあたり発行する株式数が発行済み株式総数の5%以下であり、かつ、合併交付金等の金額が純資産額の2%以下である場合でした。新会社法では、たとえば、規模の大きな会社が小さな会社を吸収合併する場合、社会的にはあまり影響がないと考えられるため、要件を資産割合だけにし、現行法の資産割合を緩和し、20%としました。

4、略式組織再編とは
 新会社法で、略式組織再編の制度が新設されました。組織再編を行う当事会社間に、支配関係があれば被支配会社の株主総会を省略し吸収合併や株式交換による完全子会社化ができるようになりました。この株主総会を省略して組織再編を行うことを略式組織再編といいます。
 略式組織再編として、株主総会の決議が省略できるのは、組織再編を行う当事会社間に特別の支配関係がある場合です。特別の支配関係とは、ある会社が、他の会社の議決権の90%以上を支配していることです。
 但し、株式譲渡制限会社(非公開会社)は、議決権の90%以上を有していても株主総会の決議が必要になります。

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平成18年2月12日 中小企業会計指針

1、中小企業会計指針の必要性
 わが国の一般の会計基準は、国際会計基準との調和化ないし統一化を図るため、高度で複雑な手続きが規定されており、投資家との直接的な取引が少ない中小企業にそのまま適用するには、コスト・ベネフィットの観点などから適切ではなくなってきました。
 そこで、投資家を中心とした多くの利害関係者を有している公開会社に適用される一般の会計基準と、投資家などの利害関係者が比較的少なくどちらかと言えば利害調整に重点を置いて、公開会社に適用される一般の会計基準を簡略化した中小企業向けの会計基準が必要になってきました。
 このような状況を背景として、平成17年8月に企業会計基準委員会等によって作成・公表されたのが、中小企業の会計基準としての性格をもつ「中小企業の会計に関する指針」です。

2,中小企業会計指針の目的
 中小企業の会計に関する指針は、中小企業が計算書類の作成に当たり拠ることが望ましい会計処理などを示すものです。このため中小企業は、本指針に拠り計算書類を作成することが推奨されています。とりわけ、新会社法施行後における会計参与設置会社が計算書類を作成する際は本指針に拠ることが適当であるとされています。

3,中小企業会計指針の作成経緯 従来、中小企業が適用することが出来る「公正なる会計慣行」とは何かが十分には明確になっていないと指摘されていました。そこで、中小企業が資金調達先の多様化や取引先の拡大等も見据えて会計の質の向上を図る取り組みを促進するため、平成14年6月に中小企業庁が「中小企業の会計に関する研究会報告書」を発表しました。また、平成14年12月に日本税理士会連合会が「中小企業会計基準」を、平成15年6月に日本公認会計士協会が「中小企業の会計のあり方に関する研究報告」をそれぞれまとめその普及を図ってきました。
 しかし、中小企業が従うべき会計基準が複数存在することは、実務上適用するにあたり混乱しますので、これらの3つの報告を統合したのです。

4、中小企業会計指針の対象
本指針の適用対象は、以下を除く株式会社です。
①証券取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社
②新会社法上の大会社及びその子会社
これらの株式会社は、公認会計士又は監査法人の監査を受けるため、一般の会計基準に基づき財務諸表を作成することから、本指針の適用対象外となっています。また、有限会社、合名会社又は合資会社についても、本指針に拠ることが推奨されています。

5,中小企業会計指針の方針
 会社の規模に関係なく取引の経済実態が同じなら会計処理も同じになるべきです。しかし、専ら中小企業のための規範として活用するため、コスト・ベネフィットの観点から、会計処理の簡便化や法人税法で規定する処理の適用が一定の場合には認められます。
 また、中小企業においては、会計情報を適時、正確に作成することにより、経営者自らが会社の経営実態を正確に把握し適切な経営管理に資することの意義も会計情報に期待される役割として強調されています。

(注)会計参与について
新会社法では、新しい会社の役員として「会計参与」という制度が規定されています。会計参与とは、中小会社の計算書類の適正性を担保するため、取締役又は執行役と共同して計算書類等を作成する株式会社の役員です。会計参与の資格は公認会計士(監査法人)又は税理士(税理士法人)に限定され、独立性を確保するため、会社の取締役等との兼任が禁止されています。

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平成18年5月28日 中小企業と会計参与制度

1、はじめに
 本年5月1日より新会社法が施行されました。会社法では、新しい会社の機関(役員)として「会計参与」という制度が規定されています。会計参与とは、中小会社の決算書等の計算書類の正確性及び信頼性を担保するため、取締役と共同して計算書類を作成する株式会社の役員です。
 従前より大会社には会計監査人の設置が義務付けられていましたが、中小会社の場合、会計監査人の設置義務がありません。そこで中小会社の計算書類の正確性と信頼性、すなわち決算書等の適正性をどのように担保すべきであるかが問題でした。そこで、会計参与制度が、中小会社の計算書類の正確さに対する信頼を高めるために、また、取締役が会社経営と重要な意思決定に専念できるように、会社法により創設されました。

2,会計参与制度の概要
①任意制度 会社の規模にかかわらず、定款で定めることにより、設置できる任意の役員(社外取締役)です。
②資格 公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人でなければなりません。
③兼任禁止 株式会社又はその子会社の取締役、監査役、執行役、会計監査人又は使用人を兼ねることができません。なお、顧問税理士は、監査役等に該当しない限り会計参与となることができます。
④選任 株主総会の決議によって選任されます。
⑤任期 原則として2年です。但し、株式譲渡制限会社(株式非公開会社)については、定款で任期を最長10年まで延ばすことができます。
⑥報酬 定款にその額の定めがないときは、株主総会の決議により決定することになっています。
⑦職務 主な職務は下記のとおりです。
・計算書類を取締役と共同作成します。共同して作成することとは、計算書類の作成過程において、会計参与と取締役の意思に基づき計算書類を作成し、また、両者の意見が合意していることです。
・株主の求めに応じて、株主総会において、計算書類の説明をしなければなりません。
・会社とは別に、計算書類を5年間保存しなければなりません。
・株主及び会社の債権者からの計算書類閲覧請求に対応しなければなりません。
⑧権限 会計参与は、会計帳簿、資料の閲覧・謄写権、計算書類を承認する取締役会への出席、計算書類の作成にあたり取締役と意見が不一致の場合における株主総会における意見の陳述、子会社の業務及び財産の状況の調査権などの権限を有しています。

3、会計参与の責任
① 会社に対する責任
会計参与は、計算書類の作成にあたりその任務を怠り、会社に対して損害を与えた場合には、損害賠償責任を負っています。この会社に対する責任は、原則として、総株主の同意がなければ免除することができません。
② 第三者に対する責任
会計参与は、その職務を行うにあたり悪意または重大な過失があった場合には、第三者に生じた損害を賠償する責任を負っています。また、計算書類に虚偽記載をした場合、注意を怠らなかったことを証明しない限り、第三者に生じた損害を賠償する責任を負っています。

4、会計参与制度のメリット・デメット
 会計参与は、公認会計士、税理士等の資格を持つ職業会計人です。会計参与制度を導入することにより、会社の計算書類の信頼性、透明性が高まり、金融機関の信頼が得られ、金融機関で実施される融資審査が効率化されれば、貸出利率の引き下げ、新規融資の実行、無担保や無保証での資金調達ができる可能性があります。一方で、会計参与制度は、会計参与報酬等の新たな費用負担、事務処理での負担、経営者の意識変革が必要です。

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平成18年8月28日 会社法の新決算書とは?

1.はじめに
 「会社法」が平成18年5月1日から施行されています。これに伴い「会社法施行規則」及び「会社計算規則」が制定され、会社の計算書類の体系が見直されています。 計算書類とは、会社法の規定で株式会社に作成が義務付けられている財務諸表、すなわち決算書のことです。決算処理実務、税務申告実務などは、旧商法から会社法の規定に従った実務を行う必要があります。

2.計算書類の新体系とは
 従来の計算書類とは、貸借対照表、損益計算書、利益処分案又は損失処理案及び営業報告書を指していました。しかし会社法では、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び注記表という計算書類の体系になりました。利益処分案(又は損失処理案)が廃止され、株主資本等変動計算書が新設されました。また、注記表も新たに設定されることになり、営業報告書については、事業報告に名称が変更され、計算書類には含まれないことになりました。

【旧商法の計算書類】
・貸借対照表
・損益計算書
・利益処分案/損失処理案
・営業報告書

【会社法の計算書類】
・貸借対照表
・損益計算書
・株主資本変動計算書
・個別注記表
※営業報告書は、事業報告書に名称が変更され、計算書類には含まれないことになりました。

3.貸借対照表の変更点とは
 貸借対照表は、会社の一定時点の財政状態をあらわすものです。株主や債権者などから受け入れた資本や負債がどうように資産として運用されているかを示しています。ですから資産、負債、資本などに適切に区分表示することが重要になります。 従来、貸借対照表は、資産の部、負債の部及び資本の部に区分されていました。しかし、資本の部は「純資産の部」に変更され、表示内容も見直されました。この変更は、有価証券を時価評価した差額金や土地の再評価をした差額金及び新株予約権の表示などを国際会計基準にあわせるために行われたものです。
 中小企業を中心に考えた場合、資本の部から純資産の部に変わることは、それほど大きい影響はないものと思います。

(資産の部)
Ⅰ 流動資産
Ⅱ 固定資産
Ⅲ 繰延資産
資産の部合計

(負債の部)
Ⅰ 流動負債
Ⅱ 固定負債
負債の部合計

(純資産の部)
Ⅰ 株主資本
      ・資本金
      ・資本剰余金
          1 資本準備金
          2 その他資本剰余金
          資本剰余金合計
      ・利益剰余金
          1 利益準備金
          2 その他利益剰余金
          XX積立金
          繰越利益剰余金
          利益剰余金合計
       ・自己株式
          株主資本合計
Ⅱ 評価・換算差額等
       ・その他の有価証券評価差額金
       ・土地再評価差額金
                  評価・換算差額等合計
Ⅲ 新株予約権
      純資産の部合計


4.損益計算書の変更点とは
 損益計算書は、一定期間の経営成績をあらわすものであり、損益とその発生原因を明らかにするものです。
 損益計算書の表示については、従来、経常損益の部、特別損益の部に分けて、また、経常損益の部は、営業損益の部と営業外損益の部に分けられていました。しかし、会社法では、売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外収益、営業外費用、特別利益、特別損失に区分して表示し、従前のような「部」による表示をしません。
 また、損益計算書の末尾の記載は、従来の未処分利益又は未処理損失から当期純利益又は当期純損失までを記載することになりました。利益処分案及び損失処理案が廃止され、株主資本等変動計算書に変更されたことにより、損益計算書の末尾の記載も変更されました。

【損益計算書】
(自平成XX年XX月XX日 至平成XX年XX月XX日)
Ⅰ 売上高
Ⅱ 売上原価
  売上総利益(売上総損失)
Ⅲ 販売費及び一般管理費
  営業利益(営業損失)
Ⅳ 営業外収益
  ・・・・・
Ⅴ 営業外費用
  ・・・・・
Ⅵ 特別利益
Ⅶ 特別損益
税引前当期純利益(税引前当期純損失)
  法人税・住民税及び事業税
法人税等調整額
  当期純利益(当期純損失)

5.株主資本等変動計算書とは
 株主資本等変動計算書は、貸借対照表の「純資産の部」の表示区分に対応しています。すなわち、株主資本等変動計算書とは、ある会計期間の純資産の部の増減変動をあらわすものとして新設された計算書類です。
 純資産の部の増減項目としては、剰余金の配当(旧利益の配当)、新株の発行、自己株式の取得、当期純利益(又は当期純損失)などです。。

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平成19年2月19日 LLC・LLPとは?

1、はじめに
 諸外国で、特にアメリカやイギリスでは、創業を促進し、企業同士のジョイント・ベンチャーや専門家などの人材の共同事業を振興するため、LLP(Limited Liability Partnership:有限責任組合)やLLC(Limited Liability Company:有限責任会社)という新しい事業形態が整備され活用されています。
 わが国の事業形態も多様化し、2005年に「有限責任組合契約に関する法律」が施行され有限責任事業組合(日本版LLP)が利用可能となり、2006年5月「会社法」が施行され合同会社(日本版LLC)が創設されました。

2、LLPとは
 LLPとは、有限責任事業組合契約によって成立する「有限責任事業組合」という事業体です。これは、株式会社の有限責任制と民法の組合についての構成員課税や自由な組織設計という3つの特徴を持つ、営利を目的とする事業体のことです。
 出資者の責任は、出資額の範囲に限定されます。また、組織設計が、法律によって定められるのではなく内部自治に委ねられています。たとえば、出資比率によらず、損益や権限の分配が出来ます。そして、取締役会・監査役といった監視機関の設置が強制されません。次にLLPの事業に利益又は損失が計上された時の課税関係はどうなるか。それは、LLP組織段階では課税せず、出資者に直接課税されます(構成員課税)。すなわち、LLPに利益が発生したときには、LLP段階で法人税は課税されず、出資者への利益分配に直接課税されることになります。また、LLPに損失が発生したときには、出資の額を基礎として一定額の範囲で、出資者の他の利益と損益通算することが出来ます。
 経済産業省から公表されている「LLP(有限責任事業組合)の設立状況」によれば、LLPの設立件数は、平成17年8月の制度施行後11月までに276件であり、12月の設立件数をあわせると17年内に300件を超えています。
業種としては、経営コンサルタントが28%を占めてもっとも多く、税理士、公認会計士、社会保険労務士、中小企業診断士などの専門家が集まり、幅広いコンサルチーム作りが行われています。次に、ソフトウエア開発・コンテンツ制作が19%を占めています。この中には、SEやコンテンツ・クリエーターの地位向上のためのパートナーシップや新スタイルの映画製作委員会があります。その他のサービス業も20%を占め、公共施設の管理サービスや、バイオの受託研究サービス、健康・医療・エネルギーの情報提供サービスなどのLLPが設立さています。製造業は10%を占め、この中には、新素材の研究開発や技術力のある中小企業が連携して脱下請けを図る目的のLLPもあります。

3、LLCとは
 LLCとは、会社法に基づき設立される「合同会社」のことです。これは、株式会社の有限責任制や法人格を有することと、民法の組合についての自由な組織設計という長所を併せ持つ、営利を目的とする会社のことです。
LLCは、法人として設立されますから法人格と有していますし、出資者全員が出資額を限度とした有限責任です。また、株式会社に比較し組織設計が内部自治に委ねられ柔軟になっています。
 LLCは、先端技術の共同研究開発のジョイント・ベンチャーのために利用されること、また、特殊な能力や独自のアイデアを持つ個人が集まりその専門的な能力の活用のために起業するために適した事業形態として期待されています。

4、諸外国のLLP・LLC
① アメリカのLLP・LLC
 アメリカでは、1977年にLLC法が制定されています。それ以来、アメリカのLLCは、10年間で約80万社が設立され、金融業、保険業、不動産業、リース業、高度サービス業、研究開発、一般の製造業等の多様な業種で利用されていいます。インテルとモトローラ等の共同研究開発JV、ファンド会社等の金融産業、ソフトウエアやコンテンツ開発等のIT産業での活用が注目されています。
② イギリスのLLP
 イギリスのLLPは、公認会計士業界や弁護士の業界で、職務義務をめぐる訴訟が増加し、無限責任のリスクが高まっていたことから、2000年に制度化され導入されています。現在では、業種が限定されず、デザイン、コンテンツ産業等の他の事業にも活用され、約1万件のLLPが創設されています。

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平成20年2月17日 内部統制とは?

1、内部統制の背景
 内部統制という言葉を新聞や書店などで目にする機会が多くなりました。これは、平成19年9月に施行された金融商品取引法(証券取引法の改正法)によって、すべての上場企業が平成20年4月から開始する事業年度から財務報告に関する内部統制報告書の作成、提出と、その内部統制報告書に対する監査法人又は公認会計士による監査を義務付けられたためです。
 金融商品取引法におけるこの制度は、西部鉄道による有価証券報告書の虚偽記載事件やカネボウ、ライブドアによる粉飾決算事件など相次ぐ上場企業による不正よって信用が失墜する虞のある証券市場に対する信頼を回復させるため、米国にならい導入されたものです。また、会社法でも会社の業務の適正さを確保するための体制の整備として、内部統制に関する規定が設けられています。

2、内部統制とは
 内部統制の実施基準では、内部統制を、内部統制は、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の四つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の六つの基本的要素から構成されると定義しています。
 内部統制は、組織の「内部」で、その事業活動等を「統制」することです。
 ①業務の有効性及び効率性・・・現在の激しい経済環境の下、事業目的達成のためには業務活動を有効な方法で、効果的に実施することが求められます。
 ②財務報告の信頼性・・・事業活動の結果を報告する財務諸表が適正に作成されないと、その財務諸表によって意思決定される投資活動等が誤ったものとなる可能性があります。
 ③事業活動に関わる法令等の遵守・・・一般にコンプライアンスといわれるものであり、企業は、守るべき法律や業界の規則等に従っていないと信用問題に発展し、存続の危機に直面する場合があります。
 ④資産の保全・・・現金、棚卸資産、機械装置等の資産が効率的に運用されて企業の利益獲得活動が行われます。その資産を横領等の不正から守ることが必要になります。

3、中小企業に与える影響及び必要性
 金融商品取引法、会社法上の法制度では、上場企業や大会社に対するものであり、未上場企業や中堅・中小企業は、内部統制報告書の作成・提出義務がありません。
 しかし、金融商品取引法で求められる上場企業の内部統制構築に関する評価範囲に、主として連結グループに含まれる子会社や関連会社が含まれる場合があります。また、上場企業の下請け会社が、その上場企業の内部統制構築の整備状況によっては、納品している製品の品質管理に関する体制等についてヒアリングを受ける可能性があります。
 粉飾決算事件だけでなく、耐震偽装、食品衛生問題等相次ぐ企業による不祥事が問題となっている今日、企業の不祥事や不正を防ぐための内部統制の整備・構築が、上場企業や大会社だけでなく中堅・中小企業も必要になってきている状況です。

4、中小企業における内部統制構築の留意点
 内部統制の整備・構築にあたり大切なことは、その組織に属している経営者を含めた人たちの倫理観や誠実性及び経営者の経営理念や経営方針です。組織に属する人たち全員が倫理観を保持し、仕事に対して誠実に取り組む企業風土を醸成することが重要です。
 中小企業の場合は、経営者に権限が集中していることが多いと考えられますので、経営者は、内部統制の目的・内容をしっかり理解し、内部統制の整備・構築にあたる必要があります。また、従業員に対して研修等を実施し、内部統制に関する理解を深める必要があります。最後に、内部統制は、上場企業や大会社だけでなく中堅・中小企業にとっても、不祥事や不正を防止する組織体制作りための有効な手段となり、強い組織を作るという利点があります。

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平成23年2月25日 IFRSとは?

1、IFRSとは
 今上場企業を中心としてIFRSという用語を頻繁に耳にするようになっています。また、書店のビジネス関係エリアではIFRS関連の書籍が数多く平積みされていますし、新聞・雑誌で特集記事が組まれています。IFRSは、通称では国際会計基準のことをいいます。
 IFRSとは、国際会計基準審議会(IASB)が設定し採用した会計基準のことで、正式には国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)です。IFRSの読み方は、イファース、アイファース、アイエフアールエスなどと読まれて使われています。
 なんで今国際会計基準がこんなに熱をおびて議論されるのかといいますと、現状の日本の会計基準と考え方やアプローチが違います。その結果、利益概念が変わり、現在の財務諸表であります貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書等はその名称、勘定科目、記載事項が変わります。詳細な説明は省略しますが、貸借対照表は「財政状態変動表」に。損益計算書は「包括利益計算書」というものに変わります。さらに、IFRSの導入にあたり連結決算体制の再構築、IT関連投資の見直し、連結グループでの経営管理体制の高度化が考えられます。このように上場企業にとっては大変な負荷がかかります。IFRSのメリットもあります。最も大きなメリットは、企業のグローバルな事業展開をするなかで共通のルールを採用することによって財務情報の透明性が増し比較可能性が確保されことです。財務諸表の信頼性が増せば上場企業だけでなく中小企業にも海外からの投資案件、新しい資金調達手段の確保、新たなビジネスパートナーの獲得などが出来ることです。特に日本の証券市場では海外投資家の投資判断に強く影響される市場ですから財務情報の透明性が高まり海外との比較可能性が確保されれば、海外投資家が安心して投資判断が出来るので、資金調達コストが下がり証券市場が活性化されると言われています。

2、IFRSの適用状況
 日本でも2000年頃より始動した会計ビックバンから会計基準が新設・変更・改正が順次行われてきましたが、2006年6月に金融庁がIFRS採用に向けて中間報告書を出しました。2010年3月期からの任意適用を認め、2012年にIFRSの強制適用の判断をすることになっています。IFRSの採用が決定されれば、準備期間を経て2015年か2016年から適用される予定です。
 欧州連合(EU)がIFRSをEU域内の上場企業に強制適用した2005年以来、主要国に普及しはじめIFRSは既に110を超える国で採用または容認されており、今後は150カ国以上になると言われています。アメリカは2014年からの強制適用を検討していますが2011年に判断する予定です。お隣の韓国は既に2009年から金融機関以外の上場企業に適用し、金融機関も2011年から適用されます。

3、中小企業にとってのIFRS IFRSは、基本的には上場企業等に対して適用されるものです。非上場の中小企業に直接的な影響はありません。但し、中小企業にとって日本でのIFRS導入は何らかの影響がないとも言えません。
 まず影響を受けると考えられるのは、中小企業のうち上場企業の連結対象会社と持分法適用関連会社です。現状の会計原則上連結対象会社と持分法適用関連会社はIFRSの適用を受ける親会社と原則として会計方針及び決算期は統一しなければならないのです。また、上場会社の連結対象会社であれば当然に親会社が連結財務諸表を作成するための財務データを作成・提供しなければなりません。日常の会計業務までIFRSに従って処理をする必要性はないかもしれませんが少なくとも決算業務はIFRSに準拠した財務データを作成する必要はあります。
 次に影響する可能性があるのは銀行からの融資やベンチャーキャピタルからの投資を受ける場合です。IFRSは上場企業に対して適用される会計基準であり、中小企業のほとんどは税務会計に基づき決算書類を作成しているのが現状です。しかし、金融商品取引法や会社法の会計監査を受けている企業の会計基準がより厳しいIFRSになれば、中小企業が準拠している「中小企業の会計に関する指針」も影響を受けることになります。その結果、銀行の融資審査やベンチャーキャピタルなどの投資家は今までの財務情報では満足せずIFRSにより近い会計基準に準拠し的確に予測した将来のキャッシュフローなどの財務情報の提出を要求してくる可能性があります。
 中小企業もIFRSとは何の関係もないと考えるのではなく今後の動向を注視する必要があると思います。

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平成23年8月24日 種類株式と事業承継

 中小企業オーナーにとって事業承継対策のうち、特に資本政策として有効な手段である会社法上の種類株式を解説します。

1、種類株式
 株式の権利内容が異なる複数の種類の株式のことを種類株式といいます。株主は保有する株式数に応じて同じ権利内容を持つのが原則ですが、会社法は例外として一定の範囲内において権利の内容が異なる複数の種類の株式を発行することを認めています。種類株式の制度は、経営権の確保を維持し資金調達が柔軟に実施できることを可能にしています。
 会社法第108条、第109条において規定されており、種類株式は、定款で定めることにより発行することが出来ます。
 ① 配当優先株
   他の種類株式より有利な条件で配当を受ける権利がある株式
 ② 議決権制限株式
       株主総会の全部又は一部について議決権を行使出来ない株式
       *公開会社では、議決権制限株式が発行済株式総数の2分の1を超えることは出来ません。
   ③ 譲渡制限株式
       株式を譲渡する場合、会社の承認を必要とする株式
   ④ 拒否権付株式(黄金株)
       株主総会又は取締役会において決議すべき事項を拒否権付種類株主総会において拒否権により承認しないこと          が出来る株式
   ⑤ 役員選任権付株式
       取締役、監査役を選任することが出来る株式
       *公開会社は発行をすることは出来ません。
   ⑥ 取得請求権付株式
       株主が所有している株式について、発行会社に取得を請求出来る株式
   ⑦ 取得条項付株式
       一定の事由が生じたことを条件として会社がその株式を取得することが出来る株式
   ⑧ 全部取得条項付株式
       株主総会の特別決議によりその全部の株式を会社が取得することが出来る株式
   ⑨ 属人的株式
       会社法では、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権について株主ごとに異なる取り扱いが出来きるようにしています。
①から⑧までは株式ごとに権利内容が異なるものですが、⑨の属人的株式は株式ではなくて株主ごとに権利内容が異なるものです。ですから、属人的株式と呼ばれています。

       *公開会社は採用が出来ません。

2、拒否権付株式(黄金株)と事業承継種類
 株式は、事業承継対策として有効な手段ですが、ここでは特に拒否権付株式を取り上げたいと思います。拒否権付株式は、通常「黄金株」といわれています。あらかじめ定款において定めた拒否権を有している事項であれば株主総会又は取締役会で多数の賛成を得たとしても、その決議のほかに拒否権付株式の株主を構成員とする種類株主総会で反対すれば通常の株主総会で承認された事項も効力を生じません。会社は、株主総会や取締役会の決議のほかに種類株主総会の承認を得なければなりません。
 拒否権の内容は、非常に強い権限を持った株式なので、通常は会社の意思決定及び執行が適時・適切になされるように、合併、会社分割、会社の解散、代表取締役の選任・解任などの会社にとって重要な事項についてのみ拒否権を定めます。また、一般的に拒否権付株式は1株か少数の株しか発行されません。会社のオーナーか事業承継者などが取得する場合が多いようです。
 事業承継対策での活用方法は、前オーナーが拒否権付株式を取得して、重要な経営判断についてはその意思決定について前オーナーの経営判断が反映されるようにすることです。前オーナーは、事業承継対策後、たとえば所有株式を後継者に全部の株式を譲渡した後では、一切の会社経営に参画することが出来なくなります。ですから、前オーナーが後継者に会社の経営権を完全に任せるのは不安がある場合、M&Aや役員の選任・解任等の重要事項について拒否権を定めることにより、後継者への指導・監視が出来るように拒否権付株式を発行することは有効な手段であると考えられます。
 拒否権付株式の評価については、税務上普通株式と同様の評価をします。

3、まとめ
 現在、中小企業は、経営者の高齢化とともに、内外ともに厳しい経済状況におかれております。このような状況の中、とりわけ後継者の育成、事業承継に伴う相続紛争の回避等が喫緊の課題となっております。円滑な事業承継を実施するためには、事前に十分な時間をかけて、事業承継計画を策定し実行していくことが大切です。今回、会社法上で規定されている種類株式の概略を説明し、また、そのうち拒否権付株式を取り上げましたが、オーナー経営者にとって他の種類株式も事業承継にあたり有効な手段足り得ますので是非ご活用ください。

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平成24年2月21日 「でんさいネット」と電子記録債権

1、「でんさいネット」とは
 「でんさいネット」が電子記録債権(でんさい)の取り扱い機関として営業を平成24年5月から開始する予定です。「でんさいネット」は通称であり、正式名称は「株式会社 全銀電子債権ネットワーク」のことです。平成20年12月に電子記録債権法が施行され、電子記録債権に関するサービスを提供する電子債権記録機関として全国銀行協会が設立しました。「でんさいネット」には、大手銀行、地銀、第二地銀、信用金庫、信用組合、政府系金融機関などほぼ全ての銀行が参加する予定です。電子債権記録機関としての役割を担う「でんさいネット」は、電子債権を記録する記録原簿を備え、電子記録債権の登記所のような存在です。

2、電子記録債権の目的
 「e-japan戦略」における中小企業金融の円滑化を図る目的で国の施策として導入されました。
電子記録債権は、これまでの手形債権や売掛債権に代わる新たな決済手段です。電子記録債権は、平成19年6月27日に公布され、平成20年12月1日に施行された「電子記録債権法」(平成19年法律第102号)により創設された債権であり、電子債権記録機関が保有する電子債権記録原簿に金銭債権情報を記録することによって債権が発生・譲渡等がなされる金銭債権であり従来の債権とは異なる新しい金銭債権です。金銭債権の取引の安全や手許流動性を確保することによって、手形債権や売掛債権の欠点を解消し、企業の資金調達の円滑化を図る観点から新しい債権の類型として制度化されたものです。
 電子記録債権は、その発生・譲渡は電子債権記録機関(「でんさいネット」)の記録原簿に電子記録することで効力を発生します。

3、電子記録債権の長所
 従来の手形に係る管理コストやリスクを解消し、また、売掛債権の流動性を阻害していた法的な課題を解消しています。債権者企業と債務者企業間で取り決められた指定支払期日に自動的に各企業の銀行口座で決済がなされます。債権の対象がはっきりしているため債権譲渡する際の譲渡対象債権の不存在や二重譲渡のリスクを回避できます。
・電子記録債権の債務者側企業メリット(支払企業)
 ①手形の保管や紛失のリスク軽減
 ②手形発行事務負担の削減
 ③印紙税、手形保険料のコスト削減
 ④二重譲渡リスクの回避
・電子記録債権の債権者側企業のメリット(納入企業)
 ①手形の保管や紛失のリスク軽減
 ②手形管理事務負担の削減
 ③手形裏書譲渡と同様に支払手段として債権譲渡が可能
 ④債権譲渡により資金調達手段として利用が可能

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平成24年8月27日 中小会計要領とは?

1、中小会計要領とは
平成24年2月に中小企業の会計に関する検討会から公表された「中小企業の会計に関する基本要領」のことです。略して中小会計要領。我が国には、上場企業を中心として適用されている企業会計基準があり、また、既に中小企業を対象とした「中小企業の会計に関する指針」(平成17年8月)があります。しかし、より中小企業の実態に即した会計のあり方を示すものとして「中小企業の会計に関する基本要領」が策定されました。
中小企業は、十分な経理人員の確保が難しく、高度な会計処理に対応するための経理体制はさらに困難です。中小企業に会計情報の開示が求められるのは、金融機関、税務当局、主要な取引先、同族株主などに限られます。さらに、中小企業は、主に法人税法に準拠した会計処理が行われています。このような中小企業の多様な実態を考慮して適用可能なものとして作成されました。中小会計要領は、決算書などの開示先や経理体制の観点から「中小企業の会計に関する指針」の適用を求められることが適当ではない中小企業を対象としています。

2、中小会計要領の概要
中小会計要領は、Ⅰ総論、Ⅱ各論、Ⅲ様式集という構成になっています。Ⅰ総論は、目的や基本的な考え方が示されています。また、Ⅱ各論は、収益、費用、資産、負債の基本的な会計処理や有価証券、棚卸資産、固定資産などの会計処理方法について記載されています。最後に、Ⅲ様式集は、貸借対照表や損益計算書などの様式や作成上の注意点が記載されています。
中小会計要領は、中小企業の多様な実態に配慮し、その成長に資するため、中小企業が会社法上の計算書類等(決算書等)を作成する際に参照するための会計処理等を示すものです。中小会計要領は、法令ではありませんが、中小企業の実務における会計慣行を考慮して作成されているため会社法上適合した会計ルールと考えられます。
中小会計要領は、下記の考え方に立脚して作成されました。
・中小企業の経営者が活用しようと思えるように理解しやすく、自社の経営状況の把握に役立つ会計であること。
・中小企業の利害関係者(金融機関、取引先、株主等)への情報提供に資する会計であること。
・中小企業の実務における会計慣行を十分に考慮して会計と税制の調和を図った上で、会社計算規則(会社法上の規則)に準拠した会計であること。
・計算書類等(決算書等)の作成負担は最小限に留めるため、中小企業に過重な負担を課さない会計であること。
・安定的に継続的に利用可能なものとする観点から国際会計基準の影響を受けないものとする。
・中小企業の会計慣行の状況等を勘案し、必要と判断される場合に改訂を行う。
・中小会計要領は、適切な記帳が前提とされている。経営者が自社の経営状況を適切に把握するために記帳が重要である。記帳は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って行い、適時に、整然かつ明瞭に、正確かつ網羅的に会計帳簿を作成しなければならない。

3、中小会計要領の活用
平成21年9月に制定された「中小企業金融円滑化法」は、平成22年12月に期限が平成24年3月まで延長され、さらに平成25年3月末まで再延長されています。中小企業金融円滑化法が導入された当初、企業は貸付条件の変更申し込み時に、詳細な経営改善計画の作成と提出が要求されていませんでした。しかし、現在、金融機関は中小企業金融円滑化法に基づいて貸付条件を変更した企業に対して、実現可能な経営改善計画の作成・提出を求めています。今後、金融庁は、金融機関に対する監督指針・金融検査マニュアルにおいて、金融機関による企業に対するコンサルティング機能の発揮にあたり、中小会計要領の活用を考えています。
人口減少・少子高齢化に伴う国内需要の減少、大企業の海外進出よる大企業依存型経営の限界、円高・東日本大震災・電力不足等の事業制約要因の増大など、今後さらに中小企業をめぐる厳しい環境は継続すると考えられます。このような状況の下、中小企業の経営者の方々が中小会計要領を適用して正確な決算書類を作成し、その正確な決算書類に基づき経営状況を把握して経営計画の作成や経営改善を図ること、また、自社の経営状況を金融機関や取引先に情報提供することにより会社の信頼性が確保されることは、会社の存続・発展のため非常に重要なことです。

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平成25年2月25日 中小企業経営力強化支援法とは?

1、中小企業経営力強化支援法とは

 平成24年8月30日に施行された「中小企業経営力強化支援法」は、中小企業の経営力の強化を図るため中小企業の支援事業を行う者を認定し、その活動を後押しするための措置及び中小企業の海外展開を促進するため、中小企業の海外子会社の資金調達を円滑にするための措置が講じられています。

2、中小企業経営力強化支援法の概要

 ①経営革新等支援機関の認定制度
日本国内の内需縮小、円高や震災の影響、取引先企業の海外進出、新興国との競争激化、本格的な海外展開など中小企業を取り巻く現状の経営課題は多様化・複雑化しています。このような経済環境の中、中小企業に対する財務内容等の経営状況の分析や事業計画の策定支援を行うための支援体制の整備が重要となっています。また、平成21年12月に施行された中小企業金融円滑化法も本年3月で期限切れとなるため、中小企業の経営改善に向けた取り組みも必要になっています。金融庁は、改定した監督指針において、地域金融機関がコンサルティング機能を発揮していくにあたり、必要に応じて地域の外部専門家や外部機関との連携を図ることも重要である旨を示しています。
 既存の中小企業支援者(商工会、商工会議所、中小企業診断士等)に加えて、金融機関、税理士、公認会計士、弁護士等で税務、金融、及び企業財務に関する専門知識や支援に係る実務経験が一定レベル以上の個人又は法人を経営革新等支援機関として国が認定することにより、中小企業に対して専門性の高い支援事業を実現するために創設された制度です。
 また、中小企業基盤整備機構からの専門家の派遣協力や信用保証協会による信用保証の付与による資金調達支援を通じて支援事業を支援することとされています。これらにより、中小企業は経営分析や質の高い事業計画を策定することが可能となり中小企業の経営力の強化が図られるとされています。
②海外展開に伴う資金調達支援
 日本では内需が減退しているだけでなく投資の抑制、生産性の低下が懸念されています。中小企業が成長するには、アジアなどの海外市場の需要を取り込むための海外展開の重要性が高くなっています。中長期的には、国内需要の大幅な増加は見込めないことから今後も成長が見込められる海外からの事業機会を取り込んでいくことが必要といわれています。
 中小企業経営力強化支援法では、主務大臣又は都道府県知事の承認・認定を受けた事業計画に従って海外展開を行う中小企業に対して以下の措置を講ずることとされています。・日本政策金融公庫の海外現地金融機関に対する債務保証業務、日本貿易保険の保険業務を拡充し、中小企業の外国関係法人や海外支店の海外現地金融機関からの資金調達を支援すること。・中小企業信用保険の保険限度額を増額し、日本の親会社経由で海外の子会社に融資する親子ローンを通じて資金調達支援をすること。 これらの支援に際しては、国内事業基盤の維持に配慮することとされています。

3、経営革新等支援機関の認定基準と役割

 経営革新等支援機関の認定基準は下記の4項目から構成されています。
① 税務、金融及び企業の財務に関する専門的な知識を有していること。
② 専門的見地から財務内容等の経営状況の分析等の指導及び助言に一定程度の実務経験を有すること。
③ 長期かつ継続的に支援業務を実施するための実施体制を有すこと。
④ 欠格条項(破産者、暴力団員等)に該当しないこと。
 また、経営革新等支援機関の役割は下記の5つが期待されています。
① 経営相談から財務状況、財務内容、経営状況に関する調査・分析を行うこと。
② 経営状況の分析から事業計画等の策定・実行支援を行い、事業計画等の進捗状況の管理、フォローアップを行うこと。
③ 経営革新等支援機関のネットワークを活用して新たな取引先の獲得や販路の拡大に向けた支援を行うこと。
④ 専門的な知識が必要な場合に最適な専門家を中小企業基盤整備機構等から派遣し、経営革新等支援機関と一体となって支援すること。
⑤ 金融機関との良好な関係を構築するために、計算書類の信頼性を向上させること。
 平成25年2月現在中小企業経営力強化支援法に基づき、商工会、商工会議所、銀行、信用金庫、信用組合、監査法人、公認会計士、税理士など全国で約5,500の機関が経営革新等支援機関として認定されています。また、長野県では約600の機関が認定されています。

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平成26年3月1日 経営者保証に関するガイドラインについて

1、背景と目的

 平成25年12月5日、中小企業庁と金融庁の関与のもと日本商工会議所と全国銀行協会を事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」が「経営者保証に関するガイドライン」と「経営者保証に関するガイドラインQ&A」を公表しました。中小企業が金融機関から事業資金の借り入れを行う場合、金融機関から経営者個人の保証を求められることが一般的に行われてきました。しかし、個人保証の慣行化は、比較的円滑な資金調達が出来ますが、経営者による積極的な事業展開や業績不振に陥った場合における早期の事業再生の阻害要因となるなどの課題がありました。このガイドラインは、これらの課題の弊害を解消し中小企業の成長・発展に役立つ合理的な保証契約の在り方を定めるものです。換言すれば、中小企業の取り組み意欲の増進を図り、中小企業金融の実務の円滑化を通じて中小企業の活力が一層引き出されることにより、日本経済の活性化に資することを目的としています。
 このガイドラインは、一定の要件と良好な経営状況のもと経営者に個人の保証を求めないことを定めています。このガイドラインに法的拘束力はありませんが、中小企業、経営者及び金融機関による対応の自主的かつ自律的な遵守を求めています。多くの金融機関等がホームページにおいてこのガイドラインに従った運用を実施していくことを表明しています。このガイドラインは平成26年2月1日から適用が開始されています。

2、概要

(1)ガイドラインの適用対象となる保証契約
 このガイドラインは、以下の要件すべてを充足する保証契約に関して適用されます。
①保証契約の主たる債務者が中小企業であること(個人事業主も含まれます)。
②保証人が個人である、主たる債務者である中小企業の経営者であること。
経営者は、中小企業・小規模事業者の代表者ですが、実質的な経営権を有している者、営業許可名義人、経営者と共に事業に従事する経営者の配偶者、経営者の健康上の理由のため保証人となる事業承継予定者も含まれます。
③主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実である、金融機関の請求に応じ、それぞれの財産状況等(負債の状況を含みます)について適時適切に開示していること。
④主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと。

(2)経営者保証に依存しない融資の場合
 中小企業である主たる債務者が経営者保証を提供することなしに資金調達することを希望する場合は、下記のような経営状況であることが求められています。
①法人と経営者との関係の明確な区分・分離
 たとえば、経営者が法人の事業活動に必要な本社・工場・営業車などの資産を所有している場合、経営者の都合によるこれらの資産の売却や担保提供により事業継続に支障をきたす恐れがあるため、そのような資産については経営者の個人所有とはせず、法人所有とすることが望まれます。自宅が店舗を兼ねている、自家用車が営業車を兼ねているなど、明確な分離が困難な場合においては、法人が経営者に適切な賃料を支払うことで、実質的に法人と個人を分離することが求められます。
 また、経理・家計の分離については、事業上の必要性がないと認められる会社から経営者への貸付は行わない、個人として消費した費用(飲食代など)について法人の経費処理としないなどの対応が考えられています。
②財務基盤の強化
 経営者個人の資産を債権保全の手段として確保しなくても、法人の資産・収益力で債務の返済が可能と判断できる財務状況を確保することが期待されています。具体的には、業績が堅調で十分な利益やキャッシュフローが確保されており、内部留保も十分であることなどです。
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示による経営の透明性確保
 金融機関からの情報開示の要請に対して、資産負債の状況(経営者個人も含む)、事業計画や業績の見通し及びその進捗状況を正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保することが求められています。具体的には、貸借対照表、損益計算書の提出のみでなく、これらの決算書上の各勘定明細を提出すること、期中の財務状況を確認するため、年1回の本決算の報告だけでなく、試算表・資金繰り表などの定期的な報告をすることが求められます。
金融機関は、上記①から③までの要件及び物的担保の提供状況などから経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断する中で、経営者保証を求めない可能性や代替的融資手法の検討が求められています。
 その他にこのガイドラインでは、一定の要件を充足する場合、多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等を残すことや、「華美でない自宅」に住み続けられることなどを検討すること、保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除することなどが定められています。また、商工会・商工会議所・認定支援機関などでの相談受付体制の構築、弁護士・公認会計士・税理士などの専門家派遣制度の創設がされる予定です。
 今後、経営者個人の保証を提供せずに資金調達を考える際、中小企業の経営者で会社の事業の再生・事業の清算に伴う個人保証債務の整理などを考える場合、このガイドラインの活用を考えてみてください。

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平成26年8月25日 クラウドファンディングとは?

1、クラウドファンディングとは

 中小企業にとって新規事業の立ち上げ、新製品の開発、設備投資などの最重要課題は資金調達です。現状の資金調達手段としては、金融機関からの借り入れ、私募債の発行などが一般的に行われてきましたが、ここ2年から3年の間にITを活用した資金調達が増えてきました。インターネットを介して、不特定多数の人々から資金調達を行うことを総称して「クラウドファンディング」と呼ばれています。クラウドファンディングにおける資金の拠出者は、インターネットを利用する世界中の人たちです。小額からの出資が可能であり、投資の経験のない人であっても、比較的参加しやすい仕組みになっています。
 クラウドファンディングは、中小企業等の資金調達者が資金調達サイト(資金調達サイト運営者)を介して、広く出資者を募集する仕組みです。

2、クラウドファンディングの類型

 クラウドファンディングは一般的に寄付型、商品・サービス購入型、貸付型、事業投資型の四つに分類されています。

(1)寄付型
①出資に対するリターン
 寄付型の資金調達とは、出資者に対するリターンを必要としない資金調達手段です。出資に対するお礼として、資金調達者から出資者に対して御礼状、ニュースレター等を送付すことがありますが、基本的には資金調達者は、出資者に対して対価を提供する義務はありません。一般的な寄付と同じです。
②資金調達の目的
 寄付型を利用する目的は、社会貢献活動や環境保全活動のための資金調達として利用されています。寄付型の資金調達は、企業だけでなく個人や団体にも広く利用されます。
③資金調達規模
 寄付型の資金調達規模は、数万円から数百万円までで行われています。小口の資金調達規模で実施され、寄付をしやすくしています。
④出資に対するリスク
 寄付型の出資者のリスクは、無いといえます。もともと出資に対するリターンは期待されていません。しかし、資金調達の目的以外に資金が使用された場合は、出資者の当初の目的が達成されないというリスクはあります。
⑤金融商品取引法適用の有無
 寄付型の資金調達サイトの運営事業者は、金融商品取引法の規制を受けません。

(2) 商品・サービス購入型
①出資に対するリターン
 商品・サービス購入型の資金調達は、出資者に対して商品やサービスなどを提供して資金調達を行うことです。いわば、一般に行われている予約販売と同様な形態と考えられます。
②資金調達の目的
 商品・サービス購入型の場合、新商品の開発や新サービス提供のための資金調達手段として利用されています。商品・サービス購入型の目的は、資金調達手段だけでなく、消費者のニーズや新商品・新サービスの価値を把握する手段として利用する目的もあります。新商品・新サービスのプロジェクを資金調達サイトに掲載することにより、市場での反響や評価を把握する手段として利用することができます。
③資金調達規模
 商品・サービス購入型の資金調達規模は、寄付型の資金調達規模と同じく数万円から数百万円までで行われています。
④出資に対するリスク
 商品・サービス購入型のリスクは、資金調達者の業績悪化などにより出資者に提供される予定の商品・サービスが提供されないというリスクがあります。
⑤金融商品取引法適用の有無
 商品・サービス購入型の資金調達サイトの運営事業者は、金融商品取引法の規制を受けません。

(3)貸付型
①出資に対するリターン
 貸付型の資金調達は、出資者に金銭が提供される資金調達手段です。出資者に提供される金銭は、資金調達された規模や資金調達者の業績によって決定された金利となります。
②資金調達の目的
 金融機関からの資金調達が難しいと判断される場合で、小額の資金調達をしたい中小企業、設立間もない中小企業、業況の判断が困難な中小企業などに利用されています。
③資金調達規模
 貸付型の資金調達規模は、寄付型や商品・サービス購入型に比較して、数十万円から数千万円と大きな資金調達金額となっています。あらかじめ決定されている金利は、定期性預金と比較して高い金利が設定されているケースが多いです。
④出資に対するリスク
 資金調達者の業況によっては、出資者に提供される金利などの分配金の支払いが滞る場合が発生する可能性があります。
⑤金融商品取引法適用の有無
 貸付型の資金調達サイトの運営事業者は、金融商品取引法の規制を受けます。資金調達者サイト運営事業者は、広く資金の募集を行うためです。

(4)事業投資型
①出資に対するリターン
 事業投資型の資金調達は、貸付型と同様に出資者に金銭が提供される資金調達手段です。また、提供される金銭の額は、資金調達者の業況よって決定された分配金となります。
②資金調達の目的
 事業投資型の資金調達を行うのは、新規事業の立ち上げや運転資金などの資金調達手段として利用するためです。
③資金調達規模
 事業投資型の資金調達規模は、貸付型の資金調達規模と同じく、寄付型や商品・サービス購入型に比較して、規模が大きい数百万円から数千万円の資金調達金額となっています。
④出資に対するリスク
 資金調達者の業績不振などによって、分配金の支払いが困難となる場合があります。資金調達者の事業内容や経済環境など取り巻く内外のリスクを理解した上で投資判断をすることが必要です。
⑤金融商品取引法適用の有無
 事業投資型の資金調達サイトの運営事業者は、貸付型の資金調達者サイト運営事業者と同様に金融商品取引法の規制を受けます。資金調達者サイト運営事業者は、広く資金の募集を行うためです。

3、クラウドファンディングの現状と見通し

 寄付型と商品・サービス購入型は、資金調達者サイト運営事業者に対する金融商品取引法を規制がないため、資金調達サイトは増加しているが、貸付型と事業投資型については、資金調達サイトの運営事業者に対する金融商品取引法の規制があるため、運営事業者は数社程度でした。そのような現状の中、平成26年5月23日、事業投資型のクラウドファンディングに関する規制を緩和する金融商品取引法等の一部を改正する法律が成立しました。また、これを受けて日本証券業協会は、同年6月17日に株式投資型のクラウドファンディングの導入に際いての自主規制を公開しました。このような法規制等の環境整備が図られる状況から鑑みると今後益々インターネットを利用した中小企業の資金調達手段の多様化が進むと考えられます。

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平成27年2月19日 経営者保証に関するガイドラインの活用について

 平成25年12月「経営者保証に関するガイドライン」が公表されました。中小企業が金融機関から事業資金の借り入れを行う場合、金融機関から経営者個人の保証を求められることが一般的に行われてきました。個人保証の慣行化は、中小企業にとって比較的円滑な資金調達が出来ますが、経営者による積極的な事業展開や業績不振に陥った場合における早期の事業再生の阻害要因となるなどの課題がありました。これらの課題を解決するため、このガイドラインは、一定の要件と良好な経営状況のもと経営者に個人の保証を求めないことを定めており、中小企業の取り組み意欲の増進を図り、中小企業金融の実務の円滑化を通じて中小企業の活力が一層引き出されることにより、日本経済の活性化に資することを目的としています。平成26年2月1日から適用が開始されています。
 金融庁は、この「経営者保証に関するガイドライン」を融資慣行として浸透させ定着させていくことが重要であると考えており、金融機関等によるガイドラインの積極的な活用に向けた取り組みを促しています。その一環として、ガイドラインの活用に関して、金融機関等により広く実践されることが望ましい取り組みを「経営者保証に関するガイドラインの活用に係る参考事例集」として取り纏め、平成26年6月に公表しました。さらに平成26年12月に金融機関等における取組事例を追加して収集し、改定版を公表しました。
 これにより、金融機関等においてガイドラインの積極的な活用事例が促進され、ガイドラインが融資慣行として浸透・定着していくと、中小企業にとっても思い切った事業展開や早期の事業再生等の取組みの参考となることが期待されています。
参考事例集では、金融庁が金融機関等から多数の事例の提出を受け、そのような事例の中から広く実践されることが望ましいと考えられる代表的な事例を抽出したものが掲載されています。ガイドラインの運用状況を知る上で参考となりますので、下記の目次をご覧ください。

Ⅰ 経営者保証に依存しない融資の一層の促進に関する事例・・・19事例
Ⅱ 適切な保証金額の設定に関する事例・・・4事例
Ⅲ 既存の保証契約の適切な見直しに関する事例・・・7事例
Ⅳ 保証債務の整理に関する事例・・・5事例

また、金融機関等のうち地域銀行からの参考事例を紹介したいと思います。経営者保証に依存しない融資の一層の促進に関する事例では、19の適用事例が掲げられていますが、ここでは四つの事例を紹介します。

(1)保全不足ではあるが、経営者保証を求めなかった事例
 設備投資に関する新規融資の申し込みにあたり、十分な物的担保の提供がなく保全不足であるが、下記のような点を考慮し経営者保証を求めなかった。
①本社等の一部は経営者の名義であるが、会社から適切な賃料が支払われているなど、法人と経営者の資産は明確に区分されていること。
②キャッシュフローが潤沢で利益償還が十分可能なこと。
③年度決算時や中間決算時等に定期的な経営状況の報告があるほか、金融機関の求めに応じて営業の状況が把握できる各種資料の提出を行うなど情報開示には協力的であり、従来から良好なリーションシップが構築されていること。

(2)債務超過ではあるが、経営者保証を求めなかった事例
設備投資のための新規融資の申し込みにあたり、債務超過ではあるが、下記のような点を勘案し、経営者保証を求めなかった。
①会社の事業用資産は関連会社(事業用資産の管理会社)の所有であり、社外取締役及び監査役といった外部からの適切な牽制機能の発揮による社内管理体制が整備されているなど、法人と経営者との関係の区分・分離がなされていること。
②現在、会社単体では債務超過(関連会社との連結では資産超過)であるが、業績が堅調であることから、今後も利益計上が見込まれ、利益による債務の返済が十分可能であり、2年後の債務超過の解消も見込まれること。
③会社からは定期的に試算表及び銀行取引状況表の提出があり、金融機関からの資料提出の求めにも速やかに対応するなど、適時適切な財務情報の開示が行われていること。
④従来から良好なリレーションシップが構築されており、取引状況も良好であること。

(3)今後の事業承継を考慮して経営者保証を求めなかった事例 長期運転資金の申し込みにあたり、代表者は高齢で、後継者に相続により保証債務の負担を残したくないとの希望により、以下のような点を勘案し経営者保証を求めなかった。
①経営者への立替金勘定が存在し、法人と経営者の資産・経理の明確な区分・分離について課題が残っていたが、経営者への立替金勘定については近年減少しており、今後さらに解消に向けて減少を図る旨の意向が示されていること。
②会社のみの資産や収益力で借入の返済が可能であること。
③適時適切な情報開示がなされ、従来から良好なリレーションシップが構築されていること。

(4)売掛債権を担保として増加運転資金に対応することで経営者保証を求めなかった事例
事業拡大に伴う新規運転資金の申し込みにあたり、メイン行ではないが、以下の事項が確認できたことにより、経営者保証を求めなかった。
①法人と経営者の間の貸借や役員報酬等が、事業規模や収益状況から妥当と判断される水準であり、法人と経営者の資産の区分が図られていること。
②事業計画に妥当性が認められ、償還に不安がないこと。
③適時適切な情報開示により経営の透明性が確保されていること。
また、安定的な販路が確保されており、外部専門会社による検証を行ったところ、売掛債権の担保適格性の確認ができたことから、ABL(*)を活用し、経営者保証を求めなかった。
*ABLとは、動産・売掛金等の担保融資のことで、担保にできる不動産がない場合に、在庫や売掛金を担保とした資金調達手段です。今後、金融機関等からの適用事例が蓄積され、金融機関や経営者に広く周知されることで、ガイドラインが、その目的である、経営者が経営者個人の保証を提供せずに資金調達ができること、会社の事業の再生・事業の清算に伴う個人保証債務の整理ができること、円滑な事業承継が図れることにより、中小企業経営のさらなる事業展開・事業再構築に役立つものとなるでしょう。

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平成28年2月20日 中小企業の多様化する資金調達手段

1、資金調達手段
 中小企業の経営者にとって新規事業分野への進出、取り換え等の設備投資、事業の再構築などのための資金調達は、重要な課題の一つです。資金調達にあたっては、調達金額、調達手段、調達時期、経済環境、株主構成など様々な考慮すべき要素があります。今日では、中小企業が活用できる資金調達手段は多様化しています。
①エクイティファイナンス
新株発行のことで、新規に普通株式や種類株式(配当優先株式、取得請求権付株式など)を発行し資金調達することです。
②デッドファイナンス
金融機関からの借入のことで、民間金融機関からの借入(証書借入、手形借入、当座貸越など)や政府系金融機関からの借入があります。また、借入を行う際に信用保証協会を利用した制度融資もあります。信用保証協会の保証制度には、保証協会独自の保証、都道府県の制度融資の保証、市町村の制度融資の保証の3つがあります。さらに、貸出条件の変更などを実行した企業などには、資本制ローンを適用する場合があります。資本制ローンとは、融資条件が資本的性質を有するものとして、金融機関が融資先の財務状況等を判断するにあたり、資本とみなすことが出来る借入金です。
③アセットファイナンス
借入や社債等の資金調達は、企業の信用力により資金調達の可否や資金調達コストが大きく影響を受ける資金調達手段です。それらに対して、アセットファイナンスは、企業の保有する資産自体の信用力やキャッシュフローの獲得能力に基づいて資金調達を行うもので、資産が流動化することにより早期に資金化出来る資金調達方法です。たとえば、手形割引、ファクタリング、セールス・アンド・リースバック、ABL(動産・売掛担保融資)などがあります。
④助成金・補助金
補助金・助成金は、国、地方公共団体、非営利団体等から支給されるものであり、融資とは異なり、原則として返済する義務のない資金です。両方とも財源は公的資金から拠出されます。補助金は、厳しい審査があり、また、倍率も高く申請期間も一般的に短期期間であるのに対し、助成金は要件を満たせば受給できる可能性も比較的高く、申請期間も補助金に比べて長期になることがあります。キャリアアップ助成金や雇用調整補助金などの雇用関係と創業促進補助金やものづくり・商業・サービス革新補助金などの経営支援関係の補助金・助成金があります。
⑤最近の資金調達手段
最近は、個人を含めた中小企業者がITを活用した資金調達手段を利用する機会が増えてきました。インターネットを介して、不特定多数の人々から資金調達を行うことを総称して「クラウドファンディング」と呼ばれています。クラウドファンディングにおける資金の拠出者は、インターネットを利用する世界中の人たちです。小額からの出資が可能であり、投資の経験のない人であっても、比較的参加しやすい仕組みになっています。クラウドファンディングは、中小企業などの資金調達者が資金調達サイト(資金調達サイト運営者)を介して、広く出資者を募集する仕組みです。クラウドファンディングの類型には、一般的に寄付型、商品・サービス購入型、貸付型、事業投資型の四つに分類されています。

2、ソーシャルレンディング
 ここでクラウドファンディングの一つの類型である貸付型に分類されるソーシャルレンディングをご説明します。ソーシャルレンディングとは、インターネット上で資金を借りたい人と資金を投資したい人を結びつけるサービスであり、両者の間にソーシャルレンディング事業者が介入します。借手にとっては低金利、貸手にとっては高利回りというメリットがあります。クラウドファンディングで集めた資金をファンド事業者が資金需要者に貸し付ける形態であり、貸金業法によって規制されています。
①手続
 ソーシャルレンディング事業者は、自社のウェブサイト上で貸手を募集し、投資の申込を行った投資家と匿名組合契約を締結し、貸手は投資金額を送金することで事業者に対する出資者となります。また、事業者は自社のウェブサイト上で借手を募集し申込があった場合は審査を行います。事業者によって審査が承認されると契約締結前に書面を交付して、借手が金銭消費貸借契約の内容に同意する場合は貸付が行われます。なお、借手に貸付を行うのは貸手ではなく事業者です。事業者は借手から返済された金額から各種手数料等と源泉所得税を控除した額を投資家に配当として支払います。
②従来型の貸付との比較
 従来の貸金業のビジネスモデルと異なる点は、事業者が借手に貸し付ける資金の原資が金融機関からの借入ではなく投資家の出資金であることです。そのため、金融機関への利払いが発生しないというメリットがあります。また、インターネットの活用により人件費、広告宣伝費、店舗費用など運転資金を大幅に削減して低コストで運営されているため、削減したコストを借入利率に反映することが出来ます。借手にとっては従来の貸金業者に比較して低金利で融資を受けられる可能性があります。たとえば、創業間もない金融機関の融資を受けられないベンチャー企業や、必要資金が小額で金融機関が融資に消極的なベンチャー企業にとっては、資金調達を容易に行うことが出来ます。しかし、貸手にとっては元本割れのリスクがあるため、ソーシャルレンディング事業者は投資家保護の観点から審査を実施しています。このような資金需要者と投資家をマッチングさせる新しい資金調達の仕組みがソーシャルレンディングです。日本でのある代表的なソーシャルレンディング事業者は、不動産の取得資金、飲食店フランチャイズの開業資金、診療所の短期的なローンなどに資金使途を事業性の資金に限定しています。投資家にとっては、投資した資金が何に使われているか明確にされているためこれまでの間接金融とも異なっています。

3、日本再興戦略改訂2015
日本再興戦略では、これまで「コーポレートガバンス・コード」の策定など大企業を中心とした「稼ぐ力」の強化を図ってきましたが、昨年の日本再興戦略改訂2015における中小企業に関する「稼ぐ力」の強化策を一部ご紹介します。
①事業者にとっての「成長戦略」の見える化
これまで地域経済を支えてきたのは、中堅・中小企業・小規模事業者です。これまで、地域経済での雇用の受け皿を提供してきました。しかしながら、これらの事業者にも変革の大波が押し寄せています。地域に根ざした事業者であればあるほど、人口減少・少子高齢化による需要の減少と人手不足により、需給両面からそもそもの存立基盤が脅かされつつあります。大企業の国際競争激化のあおりも大きく、大企業の下請という従来の系列取引関係等も崩れつつあります。このような環境の中での重要なことは、「自力」での市場開拓への挑戦です。このため、新市場の開拓や新商品の開発に取り組んだ事業者の成功事例や失敗事例を分析しつつ、事業者の目線に立って経営課題と解決策を分かりやすくまとめ普及を図ることで、成長戦略の「見える化」を推進していく。
②経営支援体制の強化
飛躍を目指す中堅・中小企業・小規模事業者に対するニーズに応じたきめの細かい経営支援体制を強化するとともに、中小企業・小規模事業者に対する地域金融機関による積極的な経営支援を促進していく。 経済のグローバル化、人口減少等の経済や社会構造の変化の中で、中小企業の置かれた環境は非常に変化をしています。従来は、大企業と中小企業との間には、建設業や製造業における元請け・下請け関係など相互依存関係が存在していました。しかし、経済のグローバル化などの進展により大企業と中小企業との相互依存関係は希薄化し、中小企業であっても自ら新商品の開発・新市場の開拓をする必要性に迫られています。その時に直面することが資金調達です。資金調達手段は多様化していますので、中小企業の経営者は、資金調達手段の選択を慎重に行ってください。

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